| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-186 (Poster presentation)
ニホンジカによる剥皮は樹種による選好性がある。常緑針葉樹林よりも高標高に位置するダケカンバ林における常緑針葉樹への剥皮の影響を明らかにすることで、気候変動による常緑針葉樹の高標高への移動可能性について考察する。調査地は、南アルプス北岳の南東斜面である。4×25mの調査区を、標高2196-2727mの範囲に58個設置し、胸高直径3cm以上の生立木を対象に胸高周囲長の計測とニホンジカの剥皮割合(幹の全周に対して剥皮されている最大面積の10%刻みでの割合)を把握した。また、Abies属については、胸高直径1cm以上の生立木・枯立木を対象に生死、毎木調査、胸高周囲長の計測とニホンジカの剥皮割合を把握した。ニホンジカによる剥皮は、常緑針葉樹(シラビソ・オオシラビソ)でダケカンバよりも選好性が高かった。Abies属は、標高が高くなるほど優占度は下がっていたものの、剥皮されている幹の割合と標高の相関関係は見られなかった。小サイズの個体ほど剥皮されており、剥皮されて枯死していたのは胸高直径10cm以下のみであった。枯死していたAbies属のうち57%は剥皮されていた。回帰木解析の結果、ニホンジカの剥皮割合がAbies属の生死に最も影響を与えていた。したがって、ダケカンバ林内のAbies属の生死には、ニホンジカの剥皮の影響が大きく、高標高のダケカンバ林におけるAbies属の定着を阻害していることが示された。