| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-187 (Poster presentation)
口永良部島は大隅諸島に位置する火山島であり,現在活発な火山活動がみられる.2015年には爆発的噴火に伴う大規模な火砕流が発生し,植生の一部が焼失した.現在は火砕流跡地に植生が回復しつつある.一方,同島はヤクシカの高密度地域であり著しく強い採食圧によって植生の種組成変化が指摘されている.したがって,森林植生の攪乱後の再生過程に大きな変化が生じている可能性がある。そこで本研究では植生回復の初期過程に重要な役割を果たす埋土種子集団に注目し,その種組成を明らかにした。2020年3月に照葉樹林(6地点),スギ植林(5地点),火砕流跡地(熱風被害を受けたスギ植林とセンダン林,4地点)において表層土壌とリターを採取し実生出現法による試験を行った.試験による発芽個体の出現種数は土壌,リター共に群落間で有意差はなかったが,多様性指数DとH’はリターのみ火砕流と照葉樹林の間で有意差があった。このことから,土壌の埋土種子の種多様性は差が無いものの,リターに含まれる種子は火砕流跡地で均等度が低いことが示された。イズセンリョウ属の個体数割合はスギ植林,火砕流跡地ともに7割以上を占めており,これが低い均等度の原因であると考えられた。照葉樹林ではイズセンリョウ属が約34%を占めるものの,ヒサカキやメヒシバなどの他種も比較的多く含まれていた.火砕流跡地ではカニクサやコゴメスゲなどの埋土種子が多く含まれ,NMDSによる序列結果から見てスギ植林と類似した種組成であると判断された.このことは埋土種子の種組成に及ぼす火砕流撹乱の影響が軽微であったことを示唆する.イズセンリョウ属,カニクサ,モクタチバナなどはシカの不嗜好植物とされる.地上の現存植生においても不嗜好種が優占していることから,強いシカの採食圧による地上植生の変化が,埋土種子相にも表れてきている可能性がある。