| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-202 (Poster presentation)
生態系から大気へ放出される二酸化炭素の主なものは土壌呼吸であり、土壌中の環境要因や生物量によって土壌呼吸量は変化するため世界各地で測定されている。一般的に、土壌呼吸は土壌温度との関係で推定されることが多いが、乾燥地域では土壌含水率も土壌呼吸速度の変動要因となることが知られている。本研究では、タイの熱帯乾燥フタバガキ林における強い乾燥と、乾季における火災が土壌呼吸速度に与える影響を明らかにすることを目的とした。
調査はタイ東北部のコラート高原にあるサケラート研究試験林において、2018年2月から2020年1月まで、自動開閉式の土壌呼吸測定システムを使用しておこなった。1.5 ha の調査区内のコントロール区と火災区にそれぞれ5つのチャンバーを設置し、1時間に1回5分間の測定を全てのチャンバーにおいておこなった。また、火災区においては2018年12月と2019年12月に人工火災実験をおこない、火災実験後に土壌呼吸速度の測定を再開した。
乾季の土壌呼吸速度の日変化は主に地温の変動に影響を受けているが、降雨に伴う土壌水分の急激な上昇によって土壌呼吸速度も大きく上昇する現象が認められた。これは土壌水分の増加によって土壌微生物活性が高まったことが考えられた。過去の文献において、火災後の地温の上昇に伴って土壌呼吸速度の上昇が多く報告されているが、本実験では火災直後の土壌呼吸速度はほとんど変化しないことが示された。これは強い乾季によって土壌含水率が非常に低く、地温の上昇による生物活性の増大には繋がらなかった可能性が考えられた。乾季の地温と土壌含水率を用いた土壌呼吸速度を予測する重回帰モデルにおいては、火災後の土壌呼吸速度は温度にはほぼ影響を受けない結果となった。以上の結果から、土壌の乾燥条件が厳しい生態系では、土壌含水率が土壌呼吸速度において重要な影響要因となることが示唆された。