| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-203 (Poster presentation)
パリ協定の採択以降、国・地域・行政区毎の森林による炭素吸収量の現状把握、気候変動下における森林炭素吸収量や炭素吸収ポテンシャルの変化を評価・予測することがますます重要視されている。そこで、標高傾度が卓越した日本の岐阜県を対象として、生態系モデルを利用して気候変動が森林炭素吸収量に及ぼす影響を評価した。生態系モデルは、岐阜県の代表的な植生タイプである常緑針葉樹林および落葉広葉樹林における炭素フラックスおよび炭素貯留量に関する観測データを用いて検証・最適化された。常緑針葉樹林および落葉広葉樹林の両シミュレーションにおいて、北部の高~中標高地域で、21世紀末の将来気候の年間の純生態系生産量(NEP)は現在気候と比較して増加し、南部の低標高地域で緩い増加または減少を示した。一方で、気候変動に伴う年間NEPの変化量は、降水量に対して低い依存度であった。高標高地域における炭素吸収量の増加は、気候シフトによって現在森林生育が困難な地域が森林生育可能な場所へと変化する影響であると考えられる。中標高地域における炭素吸収量の増加の主要因は、葉群フェノロジーの温暖化応答の影響であると考えられるが、その応答メカニズムは常緑針葉樹林と落葉広葉樹林で異なることが示唆された。低標高地域では、とくに気候変動に伴う常緑針葉樹林の呼吸量の増加が炭素吸収量に大きく影響すると予測された。以上のように、環境傾度が卓越した岐阜県では、気候変動が森林炭素吸収に及ぼす影響とそのメカニズムは、気候帯、植生タイプによって大きく異なる可能性が示唆された。