| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-205  (Poster presentation)

菌根菌タイプが日本の森林生態系の養分循環に及ぼす影響
Effects of mycorrhizal type on nutrient cycling in Japanese forest ecosystems

*稲垣善之(森林総研), 藤井一至(森林総研), 浦川梨恵子(アジア大気汚染研セ), 柴田英昭(北海道大学)
*Yoshiyuki INAGAKI(FFPRI), Kazumichi FUJII(FFPRI), Rieko URAKAWA(ACAP), Hideaki SHIBATA(Hokkaido Univ)

森林生態系の優占種は主に外生菌根菌(EM菌根)とアーバスキュラー菌根菌(AM菌根)と共生する。菌根タイプの違いは、森林生態系の物質循環に影響を及ぼすことが報告されている。日本ではEM菌根性の天然林がAM菌根性のスギ、ヒノキに転換されており、この転換が物質循環に及ぼす影響を明らかにすることが必要である。本研究では、これまでの文献における土壌の養分蓄積量、および地上部養分蓄積量について、菌根タイプの異なるAM菌根性針葉樹(AC)、EM菌根性針葉樹(EC)、EM菌根性広葉樹(EH)を比較した。リターの炭素蓄積はAC, EH でECでよりも低かった。リターのCN比はACでEC, EHよりも高かった。土壌pHはAC, ECでEHよりも高かった。水溶性カリウム濃度はAC でEHでよりも低かった。以上の結果より、ACでは、土壌酸性度が好適な条件でリターは高いCN比を維持したまま分解が進み蓄積量が低下するという特徴が認められた。地上部現存量と器官ごとの養分蓄積量の関係についてみると、葉の養分量はACで高くEHで低かった。ACでは葉の養分濃度は低いものの現存量が多いため、養分蓄積量は大きかった。枝の現存量と養分量はACで小さかった。幹の現存量はグループによる差は認めれなかったが、ACでは窒素現存量が小さかった。地上部全体では、窒素については現存量―養分蓄積量関係の傾きが異なり、ACでは傾きが小さく、現存量の小さい林分で窒素蓄積量が大きい傾向を示した。またACではECよりもカリウム蓄積量が小さかった。以上の結果より、ACでは若齢林分で窒素の吸収が活発であることが示唆された。これまで、針葉樹では一般に窒素吸収能力が低いと考えらえれてきたが、アーバスキュラー菌根性のスギ、ヒノキについては窒素吸収能力が低いとはいえないことが明らかになった。またACでは土壌のカリウム濃度、樹木のカリウム蓄積量が小さいことから、カリウム欠乏が生じやすいと考えられた。


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