| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-210  (Poster presentation)

ミジンコ個体群の遺伝的動態:2湖沼における古陸水学的復元と比較 【B】
Genetic dynamics of Daphnia pulex population: retrospective analysis by paleolimnological method and comparison in two lakes 【B】

*大竹裕里恵(兵庫県立大学), 大槻朝(東北大学), 占部城(東北大学), 吉田丈人(地球研, 東京大学)
*Yurie OTAKE(Univ. of Hyogo), Hajime OHTSUKI(Tohoku Univ.), Jotaro URABE(Tohoku Univ.), TAKEHITO YOSHIDA(RIHN, Univ. of Tokyo)

生物個体群の遺伝的構造に影響を及ぼす主要要因に、分散能力と競争能力がある。分散能力と競争能力にトレードオフが存在する可能性や、生息地への移入順を介して分散能力が競争の結果に影響を及ぼす可能性も考えられる。しかし、生物の移入初期からのモニタリングを行うことは困難であり、分散能力・競争能力・移入順の関係やこれらによる遺伝的構造への影響は知見が限られる。湖沼堆積物とその中に残るミジンコ類の休眠卵はこの分析を可能にする。本研究ではミジンコ類のうちDaphnia pulexに着目した。日本に生息するD. pulexは北米由来の4系統から成るが、いずれも絶対単為生殖系であるため系統間交雑は発生しない。本研究では、このうち2系統(JPN1, JPN2)の共存が報告されている湖沼で堆積物を用いた分析を行い、2系統の移入順とその後の動態の評価を行なっている。各湖沼で取得した堆積物を1 cm間隔で薄く切り、各層に含まれる休眠卵を計数した後、ミトコンドリアDNAに基づくジェノタイピングを実施した。併せて、植物プランクトン量の指標となるChl.a量、栄養塩濃度の指標となるTP量についても測定した。今回は、分析が完了している深見池(長野県)に加え、畑谷大沼(山形県)のDaphnia休眠卵の動態と、各湖沼の栄養塩濃度及び植物プランクトン量の変動について報告を行う。
 これまでの研究で、深見池ではJPN2に属する1遺伝子型が定着初期から近年まで優占を維持してきたこと、この優占型が種内競争において優位であることを明らかにした。畑谷大沼では、植物プランクトン量の増加が生じた時期に、D. pulex個体群が定着し休眠卵数が増加していた。また、近年の個体群では深見池と異なり、JPN1に属する1遺伝子型が優占していた。栄養塩濃度と植物プランクトン量の動態は2湖沼で異なっていた。今後は、対象湖沼での分析を完了させ、移入順と近年の動態や種内相互作用との関係、これらに対する生物的・非生物的環境要因の影響について検討を進める。


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