| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-211 (Poster presentation)
沿岸生物の遺伝的集団構造は、沿岸沖を流れる海流の流路に強く影響を受けており、日本周辺海域では黒潮と対馬暖流の流路に対応して、種内2系統(太平洋系統・日本海系統)が分布する例が複数種において報告されている。瀬戸内海は、水道や海峡を介して太平洋および日本海と接続する海域である。岩礁域の魚類では、一部の種で瀬戸内海の西端に2系統の接触域が形成されているものの、瀬戸内海の大部分の地域においては、主に太平洋系統の遺伝的要素が分布することが知られている。しかし、その他の環境の魚類については、瀬戸内海集団の系統地理学的な位置づけが明らかになっていない。そこで、沿岸性魚類における瀬戸内海の系統地理学的な特徴、および生息環境との関係を明らかにすることを目的とし、干潟、岩礁、内湾深所に生息するハゼ科魚類計9種について、瀬戸内海を含む西日本各地で標本を採集し、MIG-seq法によって得たゲノムワイドSNPsを用いて集団構造解析を行った。その結果、干潟種のうち閉鎖的な環境に生息する種では太平洋集団、日本海集団、東シナ海集団が異なるクラスターを形成しており、瀬戸内海集団は太平洋集団および東シナ海集団の両方の要素から構成されていた。このことから、瀬戸内海の一部の干潟種において、太平洋だけでなく東シナ海の祖先集団との遺伝的混合が示唆された。一方、岩礁種および開放的な河口干潟に生息する種では、太平洋集団、日本海集団、東シナ海集団が異なるクラスターを形成したが、瀬戸内海集団の大部分は太平洋集団の要素のみで構成されていた。内湾深場に生息する種では、太平洋・日本海・東シナ海・瀬戸内海の間で地理的な集団構造は認められなかった。これらのことから、生息環境の異なる種間では、最終氷期以降の瀬戸内海集団の形成過程が異なっており、最終氷期やそれ以降の環境の分布変遷の違いや仔魚分散の大きさの種間差が集団構造のパターンに影響したと考えられる。