| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-216 (Poster presentation)
群集の系統構造を調べることは、群集生態学における一般的なアプローチの一つであり、系統構造を調べることで、群集形成の過程を推測することができる。植物群集の研究では、既存の系統情報を用いるPhylomaticなどのソフトウェアで作成された系統樹がよく用いられてきたが、これらの系統樹には未解決のノードやポリトミーが多く含まれるため、未解決な系統樹が群集系統解析に与える影響について研究されている。しかし、熱帯雨林のように高度に種が豊富な群集ではまだ十分に検証できていない。加えて、群集系統解析には、群集の空間スケールも影響するため、系統樹の解決度の影響の評価は複数の空間スケールで検証する必要がある。本研究では、世界で最も種の豊富な森林の一つであるボルネオ島の熱帯雨林樹木群集を対象に、Phylomaticで作成した系統樹とDNAバーコードデータに基づいて作成した系統樹を使って、群集の空間スケールを変化させて(10×10~ 100×100 m2)算出した系統多様性(ses-MPD、ses-MNTD)の結果を比較した。
DNAバーコード系統樹では、Phylomatic系統樹よりポリトミーの数が減少した。2つの系統樹に基づいて算出したses-MPDの値は全ての空間スケールで高い相関を示し、系統樹の違いに対して頑健であることが示された。一方、ses-MNTDでは、全ての空間スケールで有意な相関を示したものの、最大空間スケールでは相関係数が小さくなり、ses-MPDほど頑健でないことが分かった。また、空間スケールによって、系統多様性指標の値は大きく変化したため、空間スケールを変えて系統多様性を解析することで、群集の系統構造に関する新しい知見が得られると考えられた。発表では、空間スケールを変えた系統構造解析の例として、調査地の熱帯雨林樹木群集の解析結果についても説明する。