| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-219  (Poster presentation)

クロクモソウ(ユキノシタ科チシマイワブキ属)の分子系統地理
Phylogeography of Micranthes fusca (Saxifragaceae)

*福田知子(三重大学), Elena LINNIK(State Nature Reserve Kurilskiy)
*Tomoko FUKUDA(Mie University), Elena LINNIK(State Nature Reserve Kurilskiy)

クロクモソウMicranthes fusca (Maxim.) S.Akiyama et H.Ohba は九州~千島列島に分布するユキノシタ科チシマイワブキ属の多年草で,渓流沿いや湿った岩の間などに生育する.これまでの研究から,クロクモソウは周北極地方に広く分布するシベリアイワブキM. nelsoniana (D. Don) Small から分化したと推定されるが,日本列島における種形成の詳細は分かっていない.
クロクモソウには花序の毛の形態の特徴によりクロクモソウvar. kikubuki(九州~東北中部),エゾクロクモソウvar. fusca(東北中部~知床を除く北海道),チシマクロクモソウvar. kurilensis(知床~千島列島)の3変種が認められている.これらの変種は地理的構造を持つことから,遺伝構造を反映していると予想された.そこで分布範囲の全体から採集した33集団330個体のサンプルについて遺伝構造を調べた.
葉緑体DNAのtrnC-rpoB, matK領域の一部を連結した1605bpに基づいて最尤法系統樹を作成したところ,エゾクロクモソウとチシマクロクモソウの一部が1つのクレードを形成し,クロクモソウ(変種)が側系統となった.外部形態との比較では,クロクモソウの特徴である多細胞毛を持つ山形県月山の集団がエゾクロクモソウと同様の遺伝的特徴を持つこと,チシマクロクモソウの一部が側系統の位置にもみられることなど,3変種は遺伝構造を必ずしも反映していなかった.一方,核リボゾームITS領域689bpに基づく最尤法系統樹では,種としてのクロクモソウは単系統にならず,葉緑体系統樹でみられたようなエゾクロクモソウを中心とするクレードもITS系統樹ではみられなかった.以上のことから,エゾクロクモソウの形成過程は,交雑,incomplete lineage sorting などの可能性も含めて考察する必要がある.


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