| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-223 (Poster presentation)
世界自然遺産地域である知床半島周辺は生産性・種多様性が高く,海鳥や海棲哺乳類などの高次捕食者が季節的に高密度に集まる海域である.海洋高次捕食者が,どのように本海域を利用しているのかを明らかにすることを目的として,船からの目視調査と計量魚群探知機による音響調査,環境DNAによる魚類群集の解析を実施した.
2019年6〜7月に北海道大学練習船おしょろ丸からの目視調査と,計量魚群探知機による音響調査を実施した.また知床半島周辺海域の11地点にて,5,100,200,400,1000 mの5層で10 Lずつ採水し,同時にCTDで水温・塩分を観測した.海水の濾物からDNAを抽出し,MiFishプライマーを用いてメタバーコーディング解析を行い,魚類相を推定した.
目視調査で最も多く記録された海鳥はハシボソミズナギドリであり,6月29日に知床岬沖で65,000羽の群れを記録した.鯨類では,イシイルカ,シャチ,マッコウクジラ,ミンククジラが知床半島の東西で見られたが,ナガスクジラは西側のみで見られた.このうち,7月2日に西側の能取岬沖で発見したミンククジラは,海鳥の群れの中にいた.音響調査により,プランクトンの反応を示す120 kHzの周波数では,能取岬沖と知床半島周辺の東西で大きな反応が見られた一方,魚類の反応を示す38 kHzの周波数では知床半島東側に大きな反応が見られた.環境DNAにより17科30種の魚種が検出され,知床半島の東西とも浅い層ではホッケやスケトウダラ,トガリイチモンジイワシ,1000 mの層ではハダカイワシ類が検出され,東側の中層のみにゲンゲ類が検出された.クラスター分析の結果,魚類群集構造は,深度,水温,塩分に影響を受けていることが示された.本研究より,知床半島周辺海域では高次捕食者の餌となる生物が高密度に分布していると考えられた.今後はさらに,物理的環境からプランクトン,そして高次捕食者へとどのようにリンクしていくかを明らかにしていく必要がある.