| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-224 (Poster presentation)
霞ケ浦周辺には1,690haのハス田が広がり、茨城県が全国の出荷量54%(2020年度)を占めるレンコンが栽培されている。ハス田は通年で湛水され、多くの水鳥が観察されているものの、その鳥類相に関する定量的なデータはこれまで無かった。一方で、茨城県ではカモ類により年間1.9億円、バン類により0.9億円(2020年度)のレンコン被害が報告され、対策としてハス田に設置されている防鳥網では、コウノトリ等の絶滅危惧種を含む多数の野鳥が羅網死する問題も生じている。農業被害対策と鳥類の生息場の保全の両立の実現に向けた基礎資料として、年間を通じてどのような鳥類がハス田を利用しているか明らかにするため、霞ケ浦周辺に45ヶ所の調査ルート(1ルート500m;ハス田主体37ルート、比較対象としてイネ田主体8ルート)を設け、2020年12月から2022年1月に、各ルートで毎月1回のルートセンサスを行った(調査協力:ほか26名)。
年間の確認種数はハス田で68種、イネ田で42種で、この内訳ではシギ・チドリ類がハス田で20種、イネ田で7種と環境による差が大きかった。月ごとではハス田で28±6種、イネ田で15±4種(平均±SD)で、どちらも冬、次いで春・秋に種数が多く、夏は少なかった。鳥類相は年間を通じてハス田の方が多様で、特に冬は、乾田となるイネ田では一部の陸性鳥類(ムクドリ、タヒバリ等)が優占したのに対し、湛水状態のハス田では特定の種に偏ることなく、シギ・チドリ類に加えてサギ類、クイナ類といった湿地性鳥類も確認された。
内陸淡水域の湿田・湿地が全国で減少する中、こうした環境を好む鳥類にとって、ハス田は重要な生息場として機能していると考えられる。今後、これら鳥類がどのような条件の田をよく利用していたか、霞ケ浦からの距離、防鳥網の有無、農事暦に応じた微環境の違い(湛水状況、耕起有無、植物の被度等)を分析していく。