| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-229 (Poster presentation)
近年、生態系保全や環境問題解決へ向けて、環境DNAを用いた水生生物の生態調査が注目されている。しかし、環境DNAは水環境中に長期間残存し、既にその場に存在しない生物を検出する誤検出(偽陽性)が課題となる。そこで、本研究では、誤検出低減に向けてDNAよりも分解しやすいとされるRNAの特性を利用し、河川における魚類-環境RNAの存在実態の解明と生態調査における偽陽性の低減効果を検証した。淡水域である那珂川 (栃木県・茨城県)で採水し、抽出したRNAからcDNAを合成し、MiFish primer (12SrRNA)を用いたメタバーコーディング解析を行った。その結果、河川水中には様々な魚の環境RNAが存在し、解析において環境DNAと同等量検出できるレベルに維持されていることが分かった。また、環境DNAのみで検出された35種の殆どがその場にいないはずの海水・汽水産の種であり、残りの淡水魚も従来の生態調査の結果から生息地点に生息している可能性は低いと考えられた。一方で、環境RNAでのみ検出された種には、個体密度が低いが生息が示唆される魚が含まれていた。さらに、メタバーコーディング解析で得られたリード数を種検出の閾値として変化させた時の、感度と偽陽性率をROC (Receiver Operating Characteristic) 曲線で解析した結果、環境DNA (AUC=0.58) は誤検出種を識別しなかったのに対し、環境RNA (AUC=0.95) は極めて優れた識別能力を示した。以上より、我々は、魚類-環境RNAが河川中に豊富に存在すること、及び誤検出の極めて少ない高感度な解析に貢献しうることを示した。従って、環境RNAを用いた生態調査は、海水・汽水産種を誤検出と定義できない海水・汽水域の調査において威力を発揮し、環境DNAを用いた生態調査方法の結果の偽陽性を解釈するために有用であると考えられる。