| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-247  (Poster presentation)

神戸に侵入したアルゼンチンアリ集団間の分布の変遷
Distribution transition among invasive Argentine ant haplotypes in Kobe port, Japan

瀬古祐吾(近畿大・院・農), 中濱直之(兵庫県大, 人と自然の博物館), 澤畠拓夫(近畿大・農), *早坂大亮(近畿大・農)
Yugo SEKO(Grad. Sch. Agr., Kindai Univ.), Naoyuki NAKAHAMA(Univ. Hyogo, Mus. Nat. Human Act), Takuo SAWAHATA(Fac. Agr., Kindai Univ.), *Daisuke HAYASAKA(Fac. Agr., Kindai Univ.)

南米原産のアルゼンチンアリ(Linepithema humile)は非意図的に世界中に導入され,侵入各地で在来生態系や農作物へ影響をおよぼすなど,最恐の侵略的外来種として名高い.本種は超巨大なコロニー(スーパーコロニー)を形成し,同一ハプロタイプ間では敵対的な行動を示さず積極的な交流をする.日本では遺伝的に異なる4つのハプロタイプ(LH1,LH2,LH3,LH4)が確認されており,そのすべてが兵庫県神戸市の港湾エリア(神戸埠頭)でみられる.神戸市では2006年に初確認され分布調査がおこなわれてきたが,その後調査されてこなかった.2019年に再調査したところ新たな個体群が発見された.そこで,mtDNA解析により新たに確認された個体群のハプロタイプの特定,および調査地域内における各ハプロタイプの分布の動態を比較した.その結果,(1)新たに発見された個体群はすべて,日本および神戸埠頭で既に確認されているいずれかのハプロタイプと一致したこと,および(2)LH1およびLH4の分布は過去13年間でほとんど変化しなかったが,LH2とLH3は分布を大きく拡大させた,という2点が明らかとなった.本種の分散能力の低さを考慮すると,LH2とLH3の分布拡大は,それら侵入地域の施設整備にともなう建設資材の輸送・移動,およびそれに乗じた跳躍的分散がLH1・LH4侵入地域と比べて頻繁に生じていたためであると考えられた.
 このことから,非意図的な生物の侵入を予防するにあたっては,貿易港での輸入品に対する検疫を強化することにくわえ,港湾整備などにともなう建設資材等の移送(国内移動)が起因する侵入のリスクについても,強いアラートをかけていく必要があるだろう.


日本生態学会