| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-248 (Poster presentation)
近年、気候変動や人・物資の移動増加などの影響により、新たな害虫の侵入、および定期的に侵入する害虫の侵入頻度の増加が生じている。侵入害虫が広域分布する場合、誘引剤への反応性や薬剤への抵抗性が地域個体群ごとに異なる可能性があるため、その対策において侵入源の特定が重要な情報を提供する。ミカンコミバエ種群Bactrocera dorsalis complexは東南アジアを中心に広域分布し、世界各地に侵入している果菜類の世界的大害虫である。かつて南西諸島および小笠原諸島に侵入・定着してたものは根絶されたものの、沖縄県には根絶後も侵入が繰り返されている。それだけでなく、九州本土への侵入も近年では繰り返されるようになった。講演者等は、根絶後に沖縄県へ侵入した本種群サンプルについて網羅的にミトコンドリアND4領域の配列情報解析を行うことで、侵入種の特定および侵入源の推定を試みた。2012〜2020年度の侵入個体サンプルによる結果では、(1)侵入個体の多くがフィリピン産と推定されること、(2)ただし、侵入地域によってフィリピン産の個体の割合は異なり、おおまかに与那国島、(与那国以外の)先島諸島、沖縄群島の3つにグループ分けできること、(3)年度による侵入個体数の大きな変動は、基本的にフィリピン産個体の侵入の多寡によること、が分かり、主な侵入源がこれまで考えられてきた台湾ではなく、フィリピンであることが推定された。一方、2021年度の侵入個体数は過去最大であった2019年度の約3倍に上ったが、同様の解析の結果、フィリピン産はわずか2個体しか含まれないことが分かった。また、過去10年間の侵入個体とは異なるハプロタイプをもつものが多く見られた。以上より、今年度の侵入パターンは過去10年とは大きく異なることが示唆された。