| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-253 (Poster presentation)
非意図的に持ち込まれる外来種の数は、物流や人流の増加により年々増加しており、新しい地域からの新規外来種の侵入や、第三国を経由した侵入などその複雑さも増すばかりである。外来種対策には、どの外来種がどの地域に定着分布しうるかの情報が有用である。そこで、ある種が利用する実現ニッチを、種分布情報と分布地点の環境情報から統計的に推定する生態ニッチモデル(種分布モデル)を外来種に適用する例が近年とくに増えている。外来種の分布推定においては、利用するニッチが原産地域でも侵入地域でも同じであると仮定した上で予測を行うが、外来種の中には原産地域とは異なる環境に進出する種も存在するため、外来種分布予測に生態ニッチモデルを利用する妥当性に関して理論から応用まで幅広い議論が行われている。
一方で生態ニッチモデルによる分布予測の多くは気候データを利用したマクロな分布可能域の推定が多く、植生や土地利用などミクロなスケールで生物の分布を規定する生息環境要因はあまり考慮されていない。そこで今回、原産地域と侵入地域それぞれで外来アリが利用する気候ニッチと生息環境(土地利用)ニッチの比較を行い、外来生物の分布規定要因の評価を行った。主成分分析による比較では、気候ニッチに比べて生息環境ニッチの方が原産地域と侵入地域の間で差が少なく、ニッチの保守性が高いことが示された。また生態ニッチモデルによる全球レベルでの分布予測を行ったところ、土地利用データのみを利用したモデルの方が気候データのみを利用したモデルより高い精度をもつ傾向が示された。この結果は、全球レベルでも土地利用情報が外来種の分布を規定する要因として重要であることを示しており、外来種の分布予測には、土地利用や植生を加味した生態ニッチモデルが有効であることを示唆している。