| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-256 (Poster presentation)
外来生物法の施行から15年以上が経過し,防除に関する知見の蓄積が進んでいる.その一方で,取扱規制の効果を検証した研究は未だ少ない.特定外来生物のボタンウキクサと未指定のホテイアオイ,アマゾントチカガミは,生育形や原産地の気候,生育立地,利用状況が似ている一方で,規制状況は異なっている.3種は同定が比較的容易で,既存の分布データがある程度信頼できる.さらに,安価で大量に流通し(またはかつてしており),不連続な生育立地(水域)における分布状況から人為的な移動の卓越が予想されるなど,取扱規制の検証に適した特徴を持つ.本研究では,これら3種の分布および流通状況の変遷を調査し,外来生物法による取扱規制の評価を試みた.分布と記録年のデータは河川水辺の国勢調査,GBIF,文献等から1850-2021年にわたる1,383件を取得・整備し,流通状況の指標として1896-2021年発行の書籍259件を精査し3種の掲載状況を集約した.対象期間を,熱帯魚・ビオトープのブーム開始(1990年)とボタンウキクサの特定外来生物指定(2005年)に基づき3期間に分割した場合,ホテイアオイは全期間を通じて広く分布していたのに対し,ボタンウキクサはブーム中に急増・分布拡大,規制後には減少・縮小し,アマゾントチカガミはボタンウキクサの規制後に急増・急拡大していた.MaxEntによる各期間の分布推定では,ホテイアオイは全期間を通じ人口,次いで気温条件にかかる指標の寄与率が大きかったが,ボタンウキクサでは拡大時に人口の寄与率が大きく,ブーム以前と規制後は気温条件の寄与率が大きかった.これらの結果から,流通規制によってボタンウキクサは特に生育・越冬に不適な冷涼地で抑制が進み,一方でアマゾントチカガミは代替商品として流通が増加し分布拡大した可能性が考えられた.また,これらの種の分布拡大には,流行など社会的背景の影響が大きいことが示唆された.