| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-264 (Poster presentation)
侵略的外来生物は、侵入した生態系の機能を大きく改変する可能性がある。森林生態系に侵入し、そこで大きなバイオマスを占める外来木本種は、森林生態系への水のインプットとアウトプットを変化させ、結果的に土壌水分環境を返還する可能性がある。本研究では、小笠原諸島の森林生態系で広く優占する外来樹木トクサバモクマオウの侵入が土壌水分環境に及ぼす影響を評価した。そのためにトクサバモクマオウが優占する森林(以下モクマオウ林)と在来木本種が優占する森林(以下在来林)において表層土壌の体積含水率およびその時間的な変化パターンを比較した。
調査は、父島列島父島で実施した。モクマオウ林と在来林が混在する地域で12地点ずつ選び、表層土壌(深さ約5cm)における体積含水率を860日間(2019年8月~2021年12月)1時間おきに継続的に測定した。また、2007年と2019年に各地点で15×15mの範囲に出現した全樹木個体の胸高直径を測定した。
一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて土壌の体積含水率の時間的変化を2つの森林で比較した。GLMMの結果、土壌の体積含水率のばらつきは、森林タイプの違いで有意に説明できた。モクマオウ林における土壌の体積含水率は、在来林におけるそれよりも低い傾向がみられた。また、日降水量も有意に土壌の体積含水率のばらつきを説明した。
また、一般化線形モデル(GLM)を用いて日降水量が一定量以下の連続した期間(以下乾燥期間)における土壌の体積含水率の減少パターンを2つの森林で比較した。GLMの結果、乾燥期間開始時の土壌の体積含水率に対する乾燥期間中の最小値は、モクマオウ林のほうが在来林よりの有意に小さかった。
本研究の結果は、森林生態系におけるトクサバモクマオウの優占は、土壌含水量を低下させることを示唆した。また、この土壌含水量の低下には、蒸散などの森林からの水の消失の違いが関係していることが示唆された。