| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-335 (Poster presentation)
近年全国的に急増している耕作放棄は放棄地内部の生物群集を変化させるだけでなく、生物の移動を通じて周辺の耕作地への波及的な影響が知られている。例えば、放棄地が病害虫の発生源となりうるなどの負の影響が懸念される一方で、植物の遷移がある程度進んだ放棄地は鳥類の生息地となり、周辺の耕作地の害虫を抑制する効果も期待されている。耕作放棄地を管理する上でこうした波及的な影響も考慮する必要があると考えられるがそれらの影響を調べた研究はまだ少ない。これまで新潟県佐渡島の一地域の棚田において耕作者が抱える問題を調査したところ、放棄地の拡大に問題意識はもっているものの、畦畔の草刈りや害虫防除にかかる負担が大きく、放棄地管理に手が回らない現状が明らかとなった。そこで、この地域の棚田で放棄地から耕作地への波及効果の実態やそれをもとにした畦畔や放棄地管理の省力化を検討するため、本研究では水田害虫の天敵クモ類を対象に草刈り頻度や放棄地との関係の解明を目指した。調査は水田畦畔において、スィーピング法によって植物上のクモ類(造網性・徘徊性)と、ピットフォールトラップによって地表徘徊性クモ類を定量的に採集した。棚田の水田畦畔は傾斜によって微小環境が異なると予想され、畦畔を平坦部と法面に分けてクモ類に影響を与える環境要因の一つとして着目した。また、放棄地の位置や面積などの影響も考慮して解析を進めた。その結果、植物上・地表徘徊性両群とも個体数と草刈り回数との間に負の関係がみられた。また、植物上の徘徊性クモ類は放棄地が隣接している耕作地畦畔で個体数が高くなる傾向がみられた。これらの結果から、少なくとも天敵クモ類の個体数を高めるためには、畦畔の草刈り頻度を現状より減らす、放棄地をある程度残すといった省力的な管理が可能だと考えられた。