| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-336 (Poster presentation)
北半球の多くの地域でシカが高密度になり、林床植物の多様性やバイオマスへの影響が指摘されている。そのような森林の一部では、人為的な窒素負荷が起きており、過去に伐採された歴史も持つ。窒素負荷や伐採は、林床植物の特定の種や分類群の生育に正もしくは負の影響を与えるため、シカによる林床植物への影響を緩和もしくは強化する可能性がある。本研究は、シカが林床植物の種多様性とバイオマスに与える影響に対して、人為攪乱が緩和もしくは強化するのか、そしてそのような効果は経年的に累積するのかを明らかにすることを目的とした。
北海道大学苫小牧研究林にて、シカ密度(ゼロ、低密度、高密度)と人為攪乱(伐採:30%間伐、窒素負荷:窒素肥料散布)を組み合わせた大規模野外操作実験区(25ha)を設定し、林床植物全体および生活型毎(木本、草本、シダ、グラミノイド、不嗜好種)について、種数と被度(バイオマスの指標)を9年間記録した。データ解析では、林床植物全体及び生活型毎の種数と被度を応答変数とし、シカ密度、人為攪乱、シカ密度と人為攪乱の交互作用を独立変数として解析した。独立変数は、毎年一定量の影響を与えるとする静的効果と、経年的にその効果が増大あるいは減少する累積効果を考慮した。そして、独立変数がとり得る全ての組み合わせの統計モデルを構築してベイズ推定し、loo指数をもとにモデル選択を行った。
解析の結果、林床植物全体と広葉草本の種数、及びグラミノイドの被度において伐採がシカ高密度による負の影響を緩和することが、検出された。一方で、シカ高密度による不嗜好種の被度増加を伐採は促進した。また、シカ密度と人為攪乱の多くが経年的に増大していた。これらの結果により、シカが林床植物群集に与える影響を理解するには、シカの個体数だけでなく人為攪乱の有無や種類、さらにはシカ密度が変化してからの経過年数も考慮に入れる必要性があると示唆された。