| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-337 (Poster presentation)
人為的改変を受けた斜面地等で優占種となるクズ(Pueraria montana var. lobata)やセイタカアワダチソウ(Solidago altissima)について、省力的管理による緑地管理上望ましい植生への誘導手法を検討するため、金沢大学構内(金沢市角間町)に野外実験区を設置し、刈り取り回数とクズの抑制効果の関係、刈り取りに対する植物種多様性の反応を調査した。野尻・伊藤(2018)による斜面地の植生管理実験から得られたクズ群落管理指針に基づき、年2回(初夏、初秋)にエンジン式刈払い機による植生除去を3年間(2018-2020)継続して行った。実験処理は各1反復(年2回刈取、年1回刈取、対照区)とした。刈り草はそのまま現地に放置して自然分解するようにした。植生調査は刈取り実施直前(初夏、初秋)に1m四方のコドラートを処理区あたり5-8箇所設置し実施した。
その結果、年1回あるいは年2回の刈取りにより無管理と比べて優占種であるクズおよびセイタカアワダチソウの存在量が一貫して減少する傾向は認められなかった。一方、管理2年後の春季の植物群落組成の年次変化として、年2回管理地ではフキ(Petasites japonicus)の優占度が増大する一方で、群落内の植物種多様性が低下する傾向が認められた。クズの除去により前年秋季の地表近くの光環境が改善されたことでフキの光合成が活発になり、群落構造の変化に至ったことが考えられた。フキは山菜としての利用価値が高いことから、生態系サービス機能を高めながら植生管理を行う動機づけとなりうる。植生管理による植物種多様性の減少についてはフキと生態ニッチが重複する小型の植物の共存が困難なためと推測される。このため、環境の不均一性(β多様性)を考慮した生育環境整備が多様な植物種の保全に必要だと考えられる。