| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-341 (Poster presentation)
2030年までに経済格差を是正すること(SDG10)は国際社会における重要な課題の一つである。極端な気象現象は、大きな経済的損失を生み出すことが知られているが、経済格差へ与える影響はほとんど明らかにされていない。これは、長期的な世帯別データが不足していること、さらに経済格差が様々な要因に起因することが理由と考えられる。本研究では、人と自然環境が密接なモンゴル放牧草原を対象に、2009年に発生した雪害が牧民間の経済格差へ与えた影響を検証する。モンゴルの遊牧研究では、家畜頭数が経済指標としてよく利用されることから、本研究では世帯が所有する家畜頭数が各世帯の経済状況を表していると想定した。2004-2013年の749世帯の長期家畜頭数パネルデータを利用し、ジニ係数を計算した。その結果、雪害前後でジニ係数は0.47から0.62と大幅に上昇し、雪害が世帯間の格差を拡大していることが明らかになった。とくに、雪害後家畜頭数が回復しなかった世帯グループ内で格差が上昇し、全体の格差へ大きく影響していた。さらに、雪害後回復しなかったグループは、回復したグループに比べ損失割合が高く、これは所有家畜頭数によらなかった。雪害後4年で全体の家畜頭数は増加したが、遊牧民間の格差は拡大したことを長期パネルデータの検証によって示した。以上の結果から、極端な気象現象の経済的影響を評価するには、全体の損失だけでなく、経済的格差を検証することの重要性が示された。さらに、極端気象による経済格差拡大を防ぐには、平時から極端気象に備え、災害時の各世帯の損失を小さくすることが重要と考えられた。