| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-347 (Poster presentation)
カーボンニュートラルの実現へ向けて洋上風力発電への期待が高まっている。しかし、構造物を設置することによる海中環境へ与える影響については、国内において研究例が少ないのが現状である。そこで本研究では、沿岸部に設置した洋上風車基礎の実証実験施設(現在撤去済み)の周辺において、環境DNA調査、当社独自の無人潜水機(以下、ディアグ®)で撮影した映像を用いた観察等から、構造物の有無による周辺環境の魚類相の違いを把握するための調査を行った。
調査地は、秋田県男鹿市沖(汀線より1.7km沖)に設置した洋上風車基礎実験施設の周辺区(近傍2ヶ所)及び、対照区として実験施設から500mと1km離れた2地点を設定した。
環境DNA分析及び水質分析は、バンドーン型採水器を用いて周辺区2ヶ所と対照区2ヶ所において、表層2m及び下層(海底から1m)の地点で採水した試料を用いて実施した。魚類観察用の映像は、船上から操縦者が操作し、周辺区の表層~下層において海中にディアグ®を一定時間定位させながら撮影した。得られた映像から、出現した魚類の計数・種判別を行った。プランクトン調査は、周辺区1ヶ所と対照区の2ヶ所の表層で行った。
環境DNA分析では26種が検出され、特に周辺区の下層では多くの魚種が検出された。映像を用いた魚類観察では、属レベルまでの分類を含めて20種が確認でき、特に下層では多くの魚種を観察することができた。これは、環境DNA調査の結果とも一致している。基礎周辺には構造物が多く、付着生物も多く見られたことから、基礎を隠れ場や餌場として利用している可能性が示唆された。プランクトン調査及び水質分析では、周辺区と対照区では差がみられなかった。
以上の結果から、洋上風車基礎周辺の魚類相を明らかにできた。また、岩礁のような構造物を好むイシダイ等が多く観察されたことから、周辺環境において洋上風車基礎が魚礁のように機能していることが示唆された。