| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-349 (Poster presentation)
近年、イノシシによる農作物被害やCSFウイルスを始めとした家畜への病原体伝播が問題となっている。これらに対して効果的な管理戦略を構築するためには、食性などイノシシの生態に関わる基礎的知見が有用である。
本研究では、イノシシとその主な餌資源の安定同位体比を基に、各餌資源の寄与率を個体毎に推定し、主な餌資源の寄与率と生息地の景観構造との関連を雌雄別に検討した。
2020年9~10月に栃木県東部で捕獲されたイノシシ61頭(雄27頭、雌34頭)から採取した肝臓と、イノシシが同時期に同地域で摂食していると考えられる動植物及び畜産用濃厚飼料の炭素および窒素の安定同位体比を測定した。得られた同位体比を基に、mixing modelを用いて餌グループ(イネ、野生植物 [堅果類、草本類、塊根類等]、サワガニ、ミミズ、家畜用濃厚飼料)毎の各個体の寄与率を推定した。その結果、野生植物とイネの寄与率は他と比べて全体的に高く、これらがイノシシにとって重要な餌資源であったとことが示唆された。ただし、イネについては箱罠の誘引餌に多用される米ぬかに由来していた可能性がある。一方、2頭の雄で濃厚飼料の寄与率が高く、これらのイノシシが畜産農場で飼料を盗食していた可能性が考えられた。
この内59頭について、野生植物またはイネの寄与度を捕獲された地区の景観構造で説明する空間統計モデルを構築し、両者の関連性を検討した。その結果、雄では説明力の高いモデルを得ることはできなかった。雌ではイネの寄与度と関連性を有する景観要素は検出されなかったものの、水田の被覆率が低い景観において野生植物の寄与率が高く、イネの摂食が困難な環境では主に野生植物を摂食していたと考えられた。