| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-358 (Poster presentation)
日本の漁場利用や水産資源管理について定められた漁業法は70年ぶりに大幅改正され、日本の水産資源評価・管理のプロセスが大きな転換点を迎えている。改正漁業法下では、翌年の漁獲可能量を決定するためのルール(漁獲管理規則, Harvest Control Rule, HCR)の合意形成プロセスが、議論の透明性を確保しながらステークホルダーを重視する方向にシフトした。本発表では、改正漁業法下での新しい合意形成プロセスを概説し、科学者とステークホルダー間のコミュニケーションという現状の問題点を指摘した上で、水産資源管理の合意形成プロセスの中で科学者がどのような点でより貢献できるかを議論する。
例えば、令和2年度にHCRが決定されたマイワシ資源では、ステークホルダー側からの様々な要望をもとに複数のHCRが提案され、その中から10年後の資源量が50%以上の確率で目標水準以上になり、かつ、ステークホルダーの要望も満たすようなHCRが選択された。HCRの選択は、複数のHCRのもとで実施された個体群動態シミュレーションの結果をもとになされた。しかし、ステークホルダーからは、個体群動態モデルや膨大な表として提示されたシミュレーション結果の理解が困難だったとの意見が複数挙げられた。科学者は意思決定のための判断材料を提供し、ステークホルダーがそれをもとに意思決定をするというプロセスは、証拠に基づく意思決定(Evidence-based Decision-making、EBDM)を具現するものであるが、水産資源管理の現場では科学者が提供する科学的結果の提供方法の未熟さがEBDMを妨げる大きな要因であることが浮き彫りになった。このことは、ステークホルダーとの科学コミュニケーションが、日本の水産資源管理においてEBDMが促進されるための鍵であり、今後の重要な研究開発分野であることを示唆する。