| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-360 (Poster presentation)
イノシシの個体数増加に伴い、西日本を中心に人身事故や農業被害が続いており、適切な個体群管理が求められている。空間的な生息状況の把握のためには、相対的な密度指標が必要であるが、イノシシでは掘返し痕跡が有用であることが先行研究により明らかになった。本研究では広域での密度指標の把握のため、調査区画内の痕跡を「ある・なし」で評価する簡便な調査手法(簡易痕跡調査)を開発した。約3~5kmの調査トレイルを設定し、100m毎に10m×2mの痕跡調査区画を設置し、合計20個の1m四方区画ごとに痕跡の有無を大小に分けて記録する方法を簡易痕跡調査とした。
掘返しはイノシシの探餌行動であるため、掘返し痕跡の密度は環境の影響を受けると考えられる。また調査者により誤差が生じることも考えられる。そこで環境と個人差による影響に着目し、2020年度に兵庫県内で実施した自動撮影カメラ調査と簡易痕跡調査のデータを用いて、相対密度指標としての簡易痕跡密度の有用性の検討を行った。
県内の6地点で3名の調査員が同じルートで調査を実施したところ、調査員により簡易痕跡密度の値は異なり、痕跡の認識は人により異なることが分かった。しかし10m×2mを20区画ではなく1区画として痕跡の有無を評価した場合、3名の痕跡データの変動係数は減少し、個人差を緩和できることが分かった。また簡易痕跡密度を目的変数とし、調査区画周辺の植生などの環境要因を説明変数として一般化線形混合モデルで解析したところ、落葉広葉樹の面積割合で正の関係が見られた。落ち葉が堆積した場所では、掘返し跡が分かりやすい、もしくは残りやすいことが要因として考えられる。密度指標性は、10m×2mを1区画とした時の大きい痕跡で最も高かったことから、この痕跡密度を相対密度指標とし、絶対密度指標としてREST法による推定値を用いることで、県全体の密度分布の推定を行った。