| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-361  (Poster presentation)

琵琶湖の透明度上昇に対する大渇水の因果効果の推定
Estimating causal impact of extreme drawdown on transparency improvement in Lake Biwa

*中西康介, 横溝裕行, 深谷肇一, 角谷拓, 松崎慎一郎, 西廣淳, 高津文人, 林岳彦(国立環境研究所)
*Kosuke NAKANISHI, Hiroyuki YOKOMIZO, Keiichi FUKAYA, Taku KADOYA, Shin-ichiro S. MATSUZAKI, Jun NISHIHIRO, Ayato KOHZU, Takehiko I. HAYASHI(NIES)

湖沼における水位操作(低下)は、湖沼生態系のレジーム管理に有効な可能性があることが指摘されている。琵琶湖では1994年に観測史上最大規模の大渇水(最低水位:−123 cm B.S.L.)が発生し、その後、透明度に上昇傾向がみられた。しかし、大渇水が透明度の上昇を引き起こしたのか、それが単なる偶然のタイミングの一致なのか、未解明であった。そこで本研究では、計量経済学分野などで発展した、調査観察時系列データに適用するための因果推論手法の一種である合成コントロール法(Synthetic control methods)を用いて、琵琶湖の透明度上昇に対する大渇水の因果効果の推定を試みた。
 琵琶湖の透明度の長期観測時系列データに合成コントロール法を適用した結果、1994年の大渇水が北湖の透明度に有意な正の因果効果を与え、渇水後約1年間で透明度が平均1.7 m上昇したことが示された。同様に、1939年に生じた渇水(最低水位:−103 cm B.S.L.)も北湖の透明度上昇を引き起こしていたことがわかった。また、1984年の渇水時(最低水位:−95 cm B.S.L.)には透明度への有意な因果効果はみられなかった。一方、南湖では、北湖とは逆に1994年の大渇水は、短期的には透明度に有意な負の因果効果を与えていた。これらのことから、大渇水が透明度に与える影響は、水深等の湖沼環境、大渇水の規模やタイミングに依存することが示唆された。


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