| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-371  (Poster presentation)

将来世代と考える2030年の生態系-創発型ワークショップの可能性と課題
Possibility and Challenges of Emergent Workshop: Co-designing the ecosystems of 2030 with future generations

*時任美乃理(京都大学地球環境学堂), 赤石大輔(京都大学フィールド研), 法理樹里(琵環研センター), 徳地直子(京都大学フィールド研), 舘野隆之輔(京都大学フィールド研), 後藤龍太郎(京都大学フィールド研), 鈴木啓太(京都大学フィールド研), 坂野上なお(京都大学フィールド研), 木下こづえ(京都大学野生動物研), 朝倉彰(京都大学フィールド研)
*Minori TOKITO(GSGES, Kyoto Univ.), Daisuke AKAISHI(FSERC, Kyoto Univ.), Juri HORI(LBERI), Naoko TOKUCHI(FSERC, Kyoto Univ.), Ryunosuke TATENO(FSERC, Kyoto Univ.), Ryutaro GOTO(FSERC, Kyoto Univ.), Keita SUZUKI(FSERC, Kyoto Univ.), Nao SAKANOUE(FSERC, Kyoto Univ.), Kodzue KINOSHITA(WRC, Kyoto Univ.), Akira ASAKURA(FSERC, Kyoto Univ.)

SDGsの目標年である2030年を目前に控え,生態系保全の推進や持続可能な社会づくりを目指すワークショップ(WS)が数多く開催されている。しかし,環境問題や生態系保全への認識は高まっているものの,それらを日々の暮らしと関連付けるには依然大きなハードルがある。発表者らは森里海連環学の理念に基づき,将来世代が環境問題や生態系のつながりを自らの暮らしの足元から見つめ,持続可能な社会づくりを自分事として捉えることができるような,社会連携および環境教育のアプローチを模索している。本研究では,昨秋に実施した高大連携事業「京大森里海ラボby ONLINE 2021 2030年のあなたと森里海連環」のWSで得られた気づきを事例として紹介する。
当WSでは,知識のインプットを基本とする一方向型講義形式ではなく,詳細な方向性を決めない自由な議論を通じて意見を創発する「創発型WS」を導入した。全国12の高校から参加した約60名の高校生と12名の研究者が6グループに分かれ,「2030年にどうなりたいか,そのためにはどうしたよいか」という大きなテーマのもと議論を行った。議論の詳細な方向性は設定しない一方で,事前に進行フォーマットを共有することでファシリテーター間のWSに対する認識の差による影響を最小限に抑えた。結果,同様の手法で作業を行なった6つのグループから,それぞれ全く異なる2030年の持続可能なビジョンが描かれた。WS後のアンケートからは,暮らす環境や立場の異なる参加者同士の活発なインタラクションを通じて意見の邂逅が果たされ,多様な見解が創出されたことがうかがえた。これは,持ち寄った意見の一方的な報告に終始するような発表形式では得ることのできない,創発型WSの大きな利点であったと考えられる。ファシリテーションを担った研究者の意見からは,創発型WSの課題点が多々みられたが,一方で将来世代との相互コミュニケーションが持つ研究アウトリーチ手法としての可能性が浮き彫りになった。


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