| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-09 (Poster presentation)
国の特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオでは、近年、チュウゴクオオサンショウウオとの雑種の分布域が拡大し、在来種の生息を脅かしている。雑種は在来種に比べて気性が荒く攻撃的に感じられるが、そのような行動特性の研究はほとんどない。そこで在来種および雑種個体の関係の解明を目的として、次の二つの仮説の検証を試みた。(1)雑種は在来種に対して攻撃的に行動する。(2)種内の個体間の関係は体サイズに依存する。
三重県内で捕獲された在来種2個体、雑種9個体を用いて行動実験を行った。丸形水槽にビデオカメラを固定し、体長、種(在来・雑種)、性別(雌・雄)の組合せを様々に変えて2個体を入れ、行動を30分間撮影した。これまでに18の組合せで計38回の実験を行い、動画から各組合せのエソグラムを作成した。また、最も攻撃的な行動として咬みつきに注目し、各組合せにおける咬みつきの有無について、体サイズ差、種、性別を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った。さらに、三重県でこれまでに捕獲・再捕獲された個体の体長データから、野外における両種の成長速度を比較した。
行動実験では、大個体から小個体への咬みつきが顕著な組合せがみられた一方で、互いに相手に無関係に遊泳するのみの組合せもあった。また、ロジスティック回帰分析の結果、咬みつきの有無に有意な影響をもつのは体サイズ差のみであり(P<0.05)、種や性別は影響していないことが明らかとなった。野外における体長の増加速度は、雑種の方が在来種よりも高かった(t検定、P<0.01)。これまで、河川で雑種が増え、在来種の分布が縮小しているのは、雑種が攻撃的であるためだと考えられてきたが、以上の結果はそれが誤りであることを示している。河川における在来種に対する雑種の優勢は、体サイズ差を生じる要因、すなわち成長速度の違いにあると考えられる。