| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-31  (Poster presentation)

クロマルハナバチの死体排除行動と死体認知のしくみ
Undertaking behavior and death recognition mechanisms in bumblebees Bombus ignitus

*河野洋, 渡邊あかり(安田学園高等学校)
*Nada KAWANO, Akari WATANABE(Yasuda Gakuen High School)

社会性昆虫は巣内の死体を巣外に捨てる死体排除行動を行う。この行動には死体由来の感染症の蔓延を防ぐ適応的な役割がある。これまで、働き蜂が死体の体表物質の増加や減少を検知することで死体を認知する機構が報告されているが、それ以外の刺激を死体認知の手がかりにしている知見はない。ここではクロマルハナバチをモデルに、死体の体表物質の量的変化と「動いているかどうか」の感受が死体認知の手がかりになっているのかどうか調査した。巣と女王蜂、働き蜂10匹を移した実験容器の中に条件の異なる死体を導入し、死体に対して行った働き蜂の行動とその回数を記録した。死んだ直後の死体と死後24時間後の死体に対する働き蜂の反応を比較した結果、死後24時間後の死体の方が死体として認知されやすくなることがわかった。次に、死体の体表物質の増減が死体認知の手がかりになっているのかどうか調べるために、体表物質を有機溶媒で洗浄した死体に対する反応を比較した。その結果、有機溶媒で洗浄した死んだ直後の死体は対照区に比べて死体排除行動が引き起こされやすく、体表物質の減少が死体認知の手がかりになっていた。死体の体表物質のGC/MS分析からTricosane、Pentacosane、Heptacosaneが検出され、その量が死後24時間後に減少していた。最後に、麻酔で動けない蜂に対する働き蜂の反応を記録した結果、麻酔で動けない働き蜂は麻酔前の動ける状態よりも死体として認知されやすく、動いているかどうかの感受も死体認知の手がかりになっていた。これらの結果は、働き蜂が体表物質の減少という化学刺激と動いているかどうかの感受という触覚刺激の2つの情報を手がかりに死体を認知していることを示している。これまでの研究は死体の体表物質による化学刺激に注目していたが、触覚刺激も死体認知の手がかりになるという新たな知見を得た。この死体認知機構は、死ぬ直前の動きの鈍い働き蜂を速やかに発見するために獲得された仕組みと考えられる。


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