| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-32 (Poster presentation)
ヒトも含め社会を形成する動物は、他個体との関わり合いによって学習能力が発達すること(社会的学習)が知られている。特にミツバチは高い記憶・学習能力と多彩なコミュニケーションを持つため、社会的学習の仕組みを研究する上で有用なモデル生物と言える。これまでの研究でミツバチの学習能力が他個体との共同生活によって向上することが報告されているが、他個体から受けるどのような刺激によって学習能力が高まるのか、どのような神経機構が関与しているのか、不明な点は多い。以上の背景より、本研究では触角を介して入力された何らかの感覚刺激がミツバチの学習能力の発達に関与するのかどうか調査した。ミツバチは匂いと砂糖水を対提示する訓練を繰り返すと、匂いを嗅いだだけで口吻を伸ばすようになる(嗅覚-口吻伸展反射連合学習実験)。この実験を応用し、個体数や触角の有無といった条件を変えて飼育した働き蜂の学習率を比較した。まず、単独で飼育した蜂(単独群)と2匹で飼育した蜂(ペア群)の学習率を比較した結果、ペア群の短期記憶テスト(最後の条件付けから10分後)の学習率が単独群よりも高くなり、他個体から受容した何らかの刺激が学習率の向上に関与していることが示唆された。次に、触角を介して入力された感覚刺激が学習率の向上に関与しているのかどうか調べるために、単独群とペア群、触角を切断した働き蜂とペア飼育した蜂(触角切断ペア群)の学習率を比較した。その結果、ペア群の学習率が期待値と差がなかったのに対して、条件付け4回目と短期記憶テストの触角切断ペア群の学習率が期待値よりも有意に低くなり、触角を介して入力された何らかの感覚刺激が正常な学習能力の発達に関与していることが示唆された。今後は、嗅覚受容体遺伝子や機械感覚子で特異的に発現する遺伝子を破壊したミツバチの学習率を調査することで、学習能力の発達に関わる感覚刺激の特定を試みたい。