| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S04-2  (Presentation in Symposium)

鳥インフルエンザウイルス検出の高感度化と感染リスク評価の高精度化
Improving the sensitivity of avian influenza virus detection and the accuracy of infection risk evaluation

*大沼学(国立環境研究所)
*Manabu ONUMA(NIES)

国内への鳥インフルエンザウイルスの侵入には、冬季に渡来するカモ類が重要な役割を担っていると考えられている。鳥インフルエンザウイルスの中で高病原性のウイルスが国内へ侵入した場合には、養鶏業界に対して大きな経済的損失が発生することになる。加えて、希少鳥類へ感染が拡大する場合もあり、今冬もナベヅル、オジロワシ、オオワシから高病原性のウイルスが分離されている。
希少鳥類への感染リスクがあることから、環境省は2008年より野生鳥類由来の検体(糞便、クロアカスワブ等)を全国から収集し、野生鳥類における鳥インフルエンザウイルスの保有状況調査を実施してきた。この調査の中で、国立環境研究所は、Lamp法での一次スクリーニングを担当している。この調査結果を活用して国立環境研究所ではこれまでに、国内に分布する野鳥がウイルスに感染するリスクの評価を行ってきた。
しかしながら、Lamp法で陽性と判定されても、最終的にウイルスの亜型が判定できる割合は、これまで約6割であった。残りの4割については、通常行われる鶏卵によるウイルス分離を介した亜型判定が出来ておらず、陰性として扱われてきた。しかし、検体の中には、感染能力のあるウイルスが存在していないだけで、少なくともウイルスの遺伝子断片が残存している可能性が高い。残存している遺伝子断片の配列を決定することができれば、ウイルスの亜型を決定することが可能となる。そこで、国立環境研究所ではウイルス分離が陰性となった検体を対象に、ウイルスの遺伝子断片を増幅する方法の開発を試みた。その結果、鶏卵によるウイルス分離が陰性となった検体からでも今回開発した方法で、ウイルスの遺伝子断片を増幅することに成功した。これにより、今後、ウイルスの国内への侵入を早期に検出できる可能性があり、また、国内に分布する野鳥がウイルスに感染するリスク評価について精度の向上が期待される。


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