| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S04-3  (Presentation in Symposium)

外来種問題の盲点:ワンヘルスの観点からの再定義
Redefining invasive species issues from a One Health perspective

*亘悠哉(森林総合研究所)
*Yuya WATARI(FFPRI)

 外来種は、人里から自然環境まであらゆる環境に侵入し,ときに高密度化して様々な問題を引き起こしている.特に在来生物多様性への影響や農作物被害などの経済被害は広く認識され、国から地方まで様々な行政レベルの主に環境や農林セクターにより、外来種対策が実施されるようになってきた。
 一方、これまでの外来種対策の枠組みでは対処が難しい問題も生じてきた。その一つが、人獣共通感染症の問題である。人獣共通感染症は、本来野生動物種の中で回る感染サイクルに人が組み込まれることで顕在化する問題である。外来種は、人の活動エリアと重複して高密度化しうる点が特徴的で、野生動物由来の感染サイクルに人や家畜を巻き込む重要な役割を果たしていることは想像に難くない。ネコやネズミによるトキソプラズマ感染リスクの増大、離島における外来シカの定着に伴うマダニの高密度化、自然環境と人里の接点においてSFTSウィルスを運ぶネコやアライグマなど、日本でも外来種が関わる感染プロセスの事例が報告され始めてきた。これらの事例からわかるのは、感染プロセスや感染リスクは当該の外来種だけで決まるわけではなく、他の野生動物密度や生息域の重複度合い、生息地の連続性、媒介節足動物の密度など、地域の生態系の構造に大きく左右されることである。このことは、現行の外来種対策、つまり種ごとに被害セクターに区切って実施する対策では、十分に感染プロセスに対処できないことを示唆している。
 本講演では、感染症対策も含めた外来種対策の新たな枠組みを検討するために、様々な事例の研究成果を踏まえつつ、近年認識されてきたワンヘルスの観点から外来種対策の再定義を試みる。そして、現在の課題と今後の外来種対策のあり方についての議論の端緒としたい。


日本生態学会