| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S04-4  (Presentation in Symposium)

野生動物を都市に招くみどり豊かなまちづくり
Creating a Green City that Invites Wildlife into the City

*佐藤喜和(酪農学園大学)
*Yoshikazu SATO(Rakuno Gakuen Univ.)

北海道では,ヒグマUrsus arctosが都市へ侵入する事例が増加している。その背景として,1990年代以降の捕獲圧の低下に伴う生息数増加と分布拡大だけでなく,高度経済成長期以降の都市部の人口増加,郊外農地の宅地転換による森林と住宅街が直接接する景観の形成により人とヒグマの生活圏が近接化したこと,人の存在が身近な環境で生まれ育った個体が増加したことも,影響しているだろう。さらに,河川管理における上流から下流までのエコロジカルネットワーク化,都市緑地法に基づく都市緑化や緑地創出,緑地のネットワーク化は,発達した河畔林や段丘斜面緑地,河畔緑地や街路や水路に,上流部のヒグマのコア生息地と中流域・下流域の河川沿いに発達した都市とを結ぶコリドーの役割を与え,かつ創出された緑地は新たに一時的生息地として機能するようになった。札幌市では2010年代にヒグマの都市侵入が目立ち始めたが,それに先立つ2000年代にはエゾシカCervus nippon yesoensisの侵入事例が顕著になり,キタキツネVulpes vulpes schrenckiは1990年代から侵入・定着が始まっていた。エゾシカは植栽樹等への食害や交通事故,キタキツネはエキノコックス症感染の観点から問題となっているが,都市への侵入防止という観点から対策が検討されることはなかった。都市緑化や河川のネットワーク化は,生物多様性保全というGlobalな価値,みどり豊かで生きものの賑わいある暮らしというLocalな価値向上に貢献したが,大型野生動物の都市侵入ももたらした。この現状に対し何らかの対策をしない限り,今後もこうした事例は増加するだろう。生物多様性保全と豊かな暮らしの実現に加え,野生動物の侵入から安心安全な暮らしを守るための街づくり・地域作りが求められている。それは鳥獣行政の枠を越えた他部局連携と地域や住民の役割分担によってしか実現できないだろう。


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