| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S21-1 (Presentation in Symposium)
森林土壌は、空間的・季節的な土壌の湿潤度の変化により、メタンを吸収する場合も放出する場合もあることが報告されている。しかし自然生態系において、大気―土壌間のメタン交換量を連続測定した例は限られており、温度上昇がメタン交換量に与える影響を明らかにしている研究も少ない。本研究では、土壌水分が通年で高く維持されている、北海道北部の泥炭地に成立する植林地において、土壌-大気間の二酸化炭素とメタンの交換量を連続測定し、根の有無や地温上昇処理が交換量に与える影響を明らかにした。
北海道大学天塩研究林内に造林した約40年生の針広混交林において,自動開閉式土壌チャンバを15基設置し、3種の処理区をそれぞれ5反復用意した。すべてのチャンバについて無雪期間中1時間間隔で、土壌―大気間の二酸化炭素とメタンの交換量を測定した。3処理区はそれぞれ、1.チャンバ周辺を根切りした区、2.根切りに加え、5㎝深地温を3℃上昇させた区、3.根切りも地温上昇も行わない対照区である。
降雨時にはフラッシュ状のメタン放出が認められたが、泥炭植林地においても無雪期間中、土壌は概ね0.5~1.5 mgC m-2 d-1の範囲でメタンを吸収していた。地温上昇処理により、メタン吸収量は期間積算で171%増加した。一方、根があることにより、メタン吸収量は144%増加した。土壌水分の減少に伴いメタン吸収量は線形に増加した。地温上昇区においても土壌水分量とメタン吸収量の関係には違いが見られないことから、地温上昇処理区におけるメタン吸収量の増加は、土壌水分の低下が直接的な要因であると考えられた。根が有る区では、地温上昇区よりも土壌水分が低下するが、メタン吸収量は地温上昇区と同程度であった。このことから根の存在は、同じ土壌水分状態でメタン吸収量を低下(メタン放出量を増加)する働きがあることが明らかになった。