| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S21-10 (Presentation in Symposium)
欧米に比べ、有機炭素が豊富な日本を含むアジアモンスーン地域の森林土壌は、温暖化に対する長期的なCO2排出量(微生物呼吸)増進の応答が大きいことに加え、温暖化に伴う土壌の乾燥化でCH4吸収能が上昇する可能性も、土壌の劣化でCH4吸収能が低下する可能性も秘めている。しかし、CH4収支と土壌炭素動態の気候変動応答に関わる観測データの欠如は、将来予測に大きな不確実性を与えている。本研究では、前例のないアジア域を網羅する森林土壌におけるCH4吸収能の広域推定及び将来予測を行うために、国立環境研究所が開発した世界最大規模のチャンバー観測ネットワークを活用した多地点連続観測を実施した。
北海道最北端の針広混交林からマレーシア半島部の熱帯雨林までの広域トランセクトを縦断する12ヶ所の森林生態系を対象に、土壌CO2/CH4フラックスを長期連続測定するとともに、8ヶ所の森林において温暖化操作実験を行い、短期的気候変動や自然的・人為的攪乱、土地利用変化などが土壌有機炭素分解及びCH4吸収能に及ぼす影響を評価した。また、高解像度の日本森林土壌CO2/CH4フラックスマップの作成を目的として、ポータブル自動開閉チャンバーシステムを用いて日本全国を網羅する数十ヶ所の森林土壌CO2/CH4フラックスの測定キャンペーンを行った結果についても報告する。
本研究で得られた結果として、全国の森林土壌CH4吸収速度は2000年前後の既存データセット(年間ヘクタールあたり8.2~11.4 kg-CH4)に比べ1.5~2倍となった。本結果に基づいて概算した全国の森林における年間CH4吸収量は、農業活動によるCH4排出量の約50%に匹敵し、温暖化ポテンシャルに換算すると人為的なCO2排出量の約1%を相殺する。また、CH4吸収速度に対する温暖化効果は温度上昇1°C当たり約13%増大した。