| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W15-3  (Workshop)

カビによって次世代へと繋がる昆虫とバクテリアの共生関係
Ménage à trois: the insect-bacteria-fungi symbiosis

*石神広太(北海道大学)
*Kota ISHIGAMI(Hokkaido University)

多くの動植物は微生物と共生関係を構築しており、その多くは相利共生であると考えられているが、微生物側の適応度を調べた例はほとんどない。しかし、共生系の進化を考える上で共生者の利益を考えることは必須である。そこで、我々は共生微生物が宿主体外で生存可能でありながら特異的な共生関係を構築する“ホソヘリカメムシ”を対象に、微生物側の利益を明らかにし、共生系の維持機構を解明するべく研究を行っている。ホソヘリカメムシは毎世代幼虫期に土壌中からBurkholderia属共生細菌を獲得し、腸内の共生器官に保持する。ホソヘリカメムシは、共生することにより体サイズの増加などの適応度効果を得る。一方、Burkholderiaは宿主腸内の共生器官でその細胞数を爆発的に増加させる。これらのことから、この共生系はお互いに利益がある「相利共生」であるように見える。しかし、この共生系では宿主の親から子に共生細菌が直接受け渡されないため、Burkholderia共生細菌がこの共生系から利益を受け取るためには、何らかの形で土壌中に再度戻らなければならない。調査の結果、土壌の上に置いた死骸の表面にはカビが生えるが、そのカビの中でCunninghamellaを表面に接種した死骸からは、共生細菌がより短い日数で脱出でき、このカビが存在しないと共生細菌がカメムシの次世代へ伝播しないことが明らかとなってきた。また、Burkholderia共生細菌はこのカビの菌糸上を移動することで、より速く分散できることが明らかとなった。さらに、共生細菌の変異株のスクリーニングから、菌糸上の分散には細菌の運動性が重要であることも明らかになってきた。以上の結果は、カビ(Cunninghamella)がホソヘリカメムシ−Burkholderia 相利共生系の進化において重要な役割を果たしている可能性を強く示唆している。


日本生態学会