| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
第20回 日本生態学会賞/The 20th ESJ Award
植物は植食性節足動物(以下害虫)の食害を受けると、様々な生理応答を示す。重要な応答の一つとして、揮発性有機分子の放出がある。この分子はHerbivory (or Herbivore)-Induced Plant Volatiles (HIPVs) と呼ばれ、未被害植物からは放出されないか、微量にしか放出されない成分である。HIPVsは非生物的な傷害(草刈りなど)でも放出が認められる成分(主に青葉アルコールのような「緑のかおり」成分)に加え、害虫食害でのみ特異的に放出されるモノテルペン、セスキテルペン等の成分のブレンドで構成されている。このHIPVsの主要な機能の一つは、食害している害虫の肉食性天敵(以下天敵)を呼び寄せること(植物−天敵間コミュニケーション)で、様々な植物、害虫、天敵の組み合わせで報告されている。さらにHIPVsを害虫が忌避する場合(植物−害虫間コミュニケーション)や、隣接する未被害植物がHIPVsを受容し、前もって防衛の準備を開始する場合(植物−植物間コミュニケーション)も数多く報告されている。演者らはHIPVsが媒介する様々なコミュニケーションに関する基礎・応用研究を行ってきた。植物−天敵間コミュニケーションの応用研究としては、京都府美山町のミズナ生産ハウスにおける主要害虫コナガに注目し、周辺環境に生息している天敵寄生蜂コナガサムライコマユバチをHIPVsで呼び寄せて防除する可能性について検討した。本寄生蜂はコナガ幼虫が食害したアブラナ科植物が放出するHIPVsに対して誘引応答を示す。誘引性に関与するHIPVsを同定し、それらの合成品を用いたコナガサムライコマユバチ誘引剤を作成した。誘引剤設置ミズナハウス(寄生蜂の餌も併設)と無設置ハウスにおけるコナガ発生調査を、4月から10月まで継続して実施した結果、期間を通してコナガが発生したハウスの割合は設置ハウスで有意に低くなった。これらの結果より、HIPVsを用いた害虫管理の可能性を示すことができた。本講演ではこの一連の応用研究を中心にこれまでの成果を紹介する。本応用研究は、生物系特定産業技術研究支援センターの助成を受け京都大学、農研機構、曽田香料(株)、(株)四国総研が共同して実施したものである。