| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


第26回 日本生態学会宮地賞/The 25th Miyadi Award

たったひとつの冴えた考え:進化理論の多方面への応用
The Only Neat Theory to do: application of evolution to various fields.

深野 祐也(東京大学農学生命科学研究科)
Yuya Fukano(Graduate School of Agricultural and Life Science, The University of Tokyo)

19世紀の欧州で生まれたたったひとつの冴えた考え-自然選択による進化-は、私たちの世界の見方を根本的に変えました。多くの皆さんと同じように、私もこの考えのシンプルさ・力強さに魅了されこれまで研究を行ってきました。私が特に興味を惹かれるのは、人間があまり介在しない自然環境ではなく、人間の活動が大きく作用する都市や農地で生きている生物です。そのような環境にいる生物たちが、人間の活動によってどのように進化しているのか、そしてその進化が群集や個体群など他の階層にどのように影響しているかを知りたいと思って研究しています。
  進化的プロセスや適応的意義に注目することで、私たちの自然との付き合い方がより良いものになるかもしれません。それらは、雑草・害虫管理や生態系の保全、農業生産など生態学の応用分野に影響する可能性があるためです。ただ、進化の観点で応用分野と交流することは、応用分野の役に立つだけではありません。伝統的に進化生態学を専門とする研究者が少なかったこれらの分野には、進化生態学的に面白い研究テーマがたくさん眠っています。現象としてはよく知られており応用的に重要なので至近要因はよく研究されているけれども、その究極要因を誰も気にしていない興味深い現象がたくさんあるのです。進化生態学を軸に、基礎と応用が交流することで、基礎的に新しい発見であると同時に応用的にも重要な視点を与える研究ができるはずです。
  本講演では、私がこれまで行ってきた様々な応用分野、例えば雑草管理・果樹園芸・保全生物学、との進化を軸にした交流の成果をお話しします。また基礎と応用の狭間にある興味深い疑問やアイデアをいくつか紹介します。オムニバス的な紹介で駆け足になりますが、この講演で、基礎と応用、分野間の垣根を飛び越えて面白い研究分野を切り開こうとする方々の後押しができれば幸いです。


日本生態学会