| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


第10回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 10th Suzuki Award

都市環境をモデルシステムに人間-野生動物相互作用の理解に挑む
Understanding human-wildlife interaction using urban environment as model system

内田 健太(カリフォルニア大学ロサンゼルス校, 生態進化生物学科)
Kenta Uchida(University of California, Los Angeles, Department of Ecology and Evolutionary Biology)

 近年の急激な都市化やアウトドア人気の増加は、これまでの人と野生動物の関係性を大きく変えつつある。特に、街の公園や観光地では、人を恐れないような、いわゆる「人馴れ」した野生動物の姿が目立つようになってきた。こうした個体の中には、捕食者への盾としてあえて人間を利用するものまで出てきたから驚きだ。人馴れした野生動物は、世界的に増加しているとされ、それは我々の思っている以上に、野性動物がSuper predatorとも表現される人間に対して、柔軟かつ迅速に対応できることを示している。さらに、人馴れは、人と野生動物の接触機会の増加を介して、都市や農地での加害個体の発生や感染症の伝播など、昨今見られる両者の軋轢発生にも深く関係しているだろう。
 小さい頃から人と野生動物の相互作用に強い関心があった私は、このように基礎・応用の両面で大変面白そうな人馴れの現象に興味を持ち、生態学の世界に飛び込んだ。しかしながら、生態学において人間そのものに対する生物応答に着目した研究の歴史は浅く、私が研究を始めた当初、人馴れの発生プロセスや長期的なパターン、生態学的帰結など、驚くほど多くのことが分かっていなかった。
 そこで私は、都市環境や自然観光の現場とそこで暮らす野生動物が、人馴れをいち早く検出できるモデルシステムと捉え、自ら調査地の開拓、人への警戒心を検出する手法の開発、人馴れを評価する研究のフレームワーク作りを行ってきた。その中で、エゾリスやキバラマーモットを対象に、人と捕食者への応答の違い、人への応答と個性形質との関連性、人馴れ集団の長期的な人への応答とその帰結といったテーマに取り組んできた。本講演では、人馴れに関する一連の研究を紹介するとともに、生理学・動物認知学・都市計画などの異分野との協働から、都市環境を舞台に、多角的に人と野生動物の相互作用の理解を目指す取り組みについても紹介したい。
 都市部や人に着目した生態学的研究は、市民との軋轢が生じやすいなど、とにかく調査がしづらい。それでも、本講演を通して、人馴れや都市生態学の研究の面白さが多くの人に伝わり、本分野を一緒に盛り上げてくれる生態学者が増えてくれたら幸いである。


日本生態学会