| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) B01-01 (Oral presentation)
共食いは同種個体を食う現象で、原生動物から哺乳類まで幅広く見られる。中でも特に配偶相手を食うものを性的共食いと呼ぶ。既知の性的共食いは、どれも片方の性が相手を一方的に食う例であり、雌雄が互いに食い合う例は知られていなかった。その唯一の例外が、発表者らが発見したリュウキュウクチキゴキブリでオスとメスが配偶時に互いの翅を食い合う現象である。本種の新成虫は長い翅を持ち、繁殖時期には飛翔するが、雌雄が出会うと配偶時に相手の翅を付け根近くまで互いに食い合い、その後両親で子育てを行う。子は成虫になるまで親元に留まる。朽木のトンネル内部で両親による子育てを完結させるという生態から、彼らの繁殖システムは遺伝的一夫一妻の可能性があると考えられてきた。遺伝的一夫一妻の下ではペアの雌雄間における性的対立は血縁度の観点から解消される。遺伝的一夫一妻の場合、メス親の子はすべてオス親の子でもあるため、雌雄で適応度を最大化する手段が一致するため対立が生まれない。この場合雌雄間には協力行動のみが進化するという予測があるが、野外での実証例はない。
本種で遺伝的一夫一妻が成立しているならば、翅の食い合いは雌雄による互いの協力という仮説が有力になる。このように翅の食い合いという全く新しい配偶行動がどのような雌雄間の関係の上に行われているのか明らかにすることは、翅の食い合いがどのような繁殖戦略であるのかを解明する上で不可欠である。
今回発表者らは本種のマイクロサテライトマーカーを開発し、野外で採集できた両親と子で構成された18コロニーを用いて血縁構造解析を行った。その結果、一部のコロニーではすべての子が両親の子であるとは言えないという実態が明らかになってきた。発表ではこれらの結果を踏まえると翅の食い合いの適応的意義がどう考えられるか、複数の仮説を検討する。