多細胞生物における細胞の集団や、生物個体群内の血縁個体の集団では、各個体が協力的に振る舞うことで集団全体のパフォーマンスを高めるような性質を進化させる場合がある。その場合、全ての個体が同一な協力レベルを示す場合もあるが、メンバー間で役割が分化して、主として繁殖を行うメンバーと繁殖を犠牲にして主として集団の維持に勤しむメンバーに役割が分化する場合がある。こうした労働分業（labor division）がどのような条件で進化するのかについてはこれまでも理論的に研究がなされており、個体の繁殖力と生存力の間のトレードオフの形が重要であることが指摘されている。本発表では先行研究の理論モデルを発展させ、先行研究とは異なったアプローチで解析を行った。それにより、(1) 集団サイズの増加は協力の進化を促進しうる、(2) 血縁度の低下は協力の進化を抑制する、(3) 協力の進化に伴って分業が進化するかどうかには個体の繁殖力の関数形が第一義的に重要で、集団サイズや血縁度は分業の進化条件そのものには影響しない、ことなどがわかった。