| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-03 (Oral presentation)
植物は膨大な量の揮発性有機化合物(Biogenic Volatile Organic Compounds:BVOC)を放出している。BVOCの放出量は、食害によって増大し、植食者に対する抵抗性を誘導する働きを持つことが知られている。また、食害された他個体が発したBVOCシグナルを盗み聞きする形で、食害されていない個体にも抵抗性が誘導されるという現象が知られており、これは植物間コミュニケーションと呼ばれている。本研究では、抵抗性を誘導するためのシグナルとしてBVOCを利用する戦略がどのような条件で進化するのか、数理モデルを用いて明らかにすることを目的とする。BVOCは、シグナルを発する個体自身の適応度を向上させる自己防御効果と、周囲に分布する他個体から盗み聞きして適応度を変化させる盗み聞き効果を持つと仮定し、植物個体の分布様式、自己防御効果、盗み聞き効果、BVOCシグナルの放出コスト等が、BVOCシグナル戦略の進化に与える影響を調べた。シグナルを発するSignaling個体とシグナルを発しないNon-Signaling個体が格子状に偏って分布し空間構造を持つと仮定した格子モデルを導入し、空間構造を持たないモデルと進化条件を比較した。その結果、個体分布に空間構造があり、シグナルを盗み聞きできる範囲と種子散布の範囲が狭い場合、BVOCシグナル戦略は、シグナルのコストが小さいときや自己防御効果で得られる利益が大きいときに進化しやすいということが示唆された。繁殖様式には種子散布やクローン成長などいくつか種類があるが、繁殖様式の違いによって個体分布に偏りが生じ、BVOCシグナル戦略の進化に影響するという可能性がある。また、BVOCには、植食者の天敵を誘引するなどの効果もある。本研究を発展させることで、植物がBVOCを利用して個体内・種内・種間シグナル伝達をすることの意義を理論的に明らかにし、植物が関わっている生物間相互作用への理解を深めることにつながる。