| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-05  (Oral presentation)

個体群行列モデルから導かれる「個体・繁殖価・感度」の流れに潜む共通則
Coomon character in flows of inter-stage, reproductive value and sensitivity in matrix population model

*高田壮則(北海道大学), 横溝裕行(国立環境研究所)
*Takenori TAKADA(Hokkaido Univ.), Hiroyuki YOKOMIZO(NIES)

個体群行列モデルの歴史は古く、Leslie(1945)の研究に遡ることができる。この数十年の間に動植物の個体群動態を定量化する有効なツールとしてよく用いられ、理論研究でもさまざまな個体群統計量が開発されてきた。近年では、Yokomizo et al.(2017)1)によって、新たな統計量、「個体の流れ」が提案され、さらに2019年には、「繁殖価の流れ」2)が提案されている。生育段階jから生育段階iへの「個体の流れ」は、fijIS=aij ujという式で定義される量であり、「繁殖価の流れ」は、fijRV=aij viで定義される量である。式中、aij は個体群行列のi行j列目の要素、ujは生育段階jの安定生育段階構成、viは段階iの繁殖価を表す。すでに、それぞれの流れは、総和すると、どちらも個体群成長率(λ)に等しくなることが証明されている。本講演では、これら二つの流れの生態学的な意味を調べた結果を紹介し、もう一つ「感度の流れ」を加えた三種類の流れに共通してみられる法則について報告する。
 「個体の流れ」の生態学的意味を考えると、さまざまな生育段階間の流れの過程で、個体数を減少させる場合もあれば、増加させる場合もあることがわかった。また、また、個体の流れの総和が個体群成長率に等しいことの別証明が得られた(∑i,jfij =λ)。その証明の過程で、線形代数でよく知られる固有値・固有ベクトルの定義式を導き出すことができた。
 同様に、個体群統計量の中でよく知られている「感度(sij)」について、「感度の流れ」をfijSE=aij sijと定義すると、感度の流れの総和も個体群成長率に等しいことを証明することができる。この結果は、すでにde Kroon et al., (1986) によって与えられた等式の再解釈によって得られる。したがって、これら三つの流れには「流れの総和は個体群成長率に等しい」という共通点がみられることがわかった。

1)Yokomizo et al. (2017)  The 33rd Annual Meeting of the Society of Population Ecology.
2) 横溝他(2019) 第66回日本生態学会


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