| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-08 (Oral presentation)
コロナウイルス感染症の消長は、数ヶ月の周期で第1波、第2波、といった振動を示す。通常、感染症が広がったあとの減少は感受性人数の低下によるが、2020-2021年の日本のコロナウイルス感染症では罹患した割合はごく小さいため、それとは異なる機構で生じている。
感染症が蔓延すると、人々が繁華街に出かける活動を控えたり、政府の規制などにより、蔓延がおさまる。その結果、人々は活動レベルを再び増加させ、政府も規制をゆるめ、再び蔓延する。このように、感染症動態と人々の行動動態とが結合する状況を考えた。
最も単純化したダイナミックスを想定する。仮定は:[1]感受性人数の変化は小さいので一定値x_0とする。[2] Y が患者数、z が人々の中で活動レベルが高い割合(1-zが低い割合)とする (0≤z≤1)。[3]活動性が高い人は低い人よりも感染率が大きい。[4]また患者数Yが増えると活動レベルを控える人が増える(感染リスク回避)。[5]集団内での活動性の割合が大きいと自らも活動性を高くする傾向がある(同調性)。これらの連立微分方程式系を解析した。
モデルは典型的な非線形挙動を示し、ホップ分岐に加えて、ホモクリニック分岐、トランスクリティカル分岐、サドルノード分岐などの、様々な分岐がみられる。初期値依存性、安定な振動、パラメータ変化により振動の周期が無限に長くなる現象などがみられた。
感染症が消失せずかつごく低いレベルにとどまるには、回復率が、全員の活動レベルが低い場合と全員が高い場合の2つの感染力の中間にあることが必要である。また一定ではなく振動するためには、それに加えて、感染症リスクを回避する傾向と、他の個体の行動と同調する傾向がともに強い必要があることがわかった。