| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-05 (Oral presentation)
ホンドタヌキ (Nyctereutes procyonoides viverrinus) は、日本の在来中型食肉目動物である。近年東京都では、多摩地域の里山地域において外来生物のアライグマ (Procyon lotor) が定住・繁殖するようになり、個体数が増加しているとみられる。2種は体サイズが似ているため、生態的ニッチの重複により競合が生じると考えられ、タヌキ個体群への影響が懸念される。そこで、本研究では東京都の西部の里山において、タヌキの通年の食性を調査し、アライグマ移入前の先行研究と比較を行った。東京都西部里山地域の日の出町において、2019年3月から2020年2月までに140個の新鮮なフンサンプルを採取し、ハンドソーティング法とポイントフレーム法により分析した。その結果、果実と種子 (出現頻度FO = 90.7%)、ミミズ類 ( FO = 60.7%) および昆虫類 ( FO = 48.6%) が主要な餌項目であることが明らかになった。タヌキは液果、特に柑橘類 (Citrus spp.)、ブルーベリー (Vaccinium spp.) に高い選択性を示した。ミミズ類 (Megascolecina spp.) は主要なタンパク源と考えられる。東日本の他地域の先行研究により報告されている食性と比較すると、より多くの果実を利用していたが、昆虫は少なかった。さらにこの結果をアライグマ侵入前の同地域の先行研究と比較したところ、冬にタヌキの食性の多様度に低下が見られ、主に冬と春の哺乳類の減少と果実の増加がみられた。これは、出産・子育て時期の前に利用できるタンパク質が減少したことを示し、アライグマとの競争による栄養ニッチの変化と考えられた。しかし、夏と秋の食性の変化は見られなかった。したがって、里山地域のタヌキは果実の利用の柔軟性により、侵入したアライグマと共存が可能となっていると思われる。今後、行動面からも採餌戦略を調べる必要がある。