| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-01  (Oral presentation)

海洋酸性化がヒザラガイ Acanthopleura japonicaに及ぼす直接的・間接的影響
Direct and indirect effects of ocean acidification on the Chiton Acanthopleura japonica.

*松本凌, 今孝悦(東京海洋大学)
*Ryo MATSUMOTO, Koetsu KON(TUMSAT)

【背景・目的】海洋酸性化は海水のpHが長期的に低下する現象を指す。これは石灰化生物の成長・生存率を減じるだけでなく、動物の認知能の低下や行動阻害を引き起こすことが報告されている。 また、こうした直接的な影響だけでなく、餌資源や捕食者の種組成を改変することで、間接的な影響を与えることも懸念されている。ヒザラガイA.japonicaは石灰質の殻板を持つ軟体動物の一群であり、岩礁域ではキーストン種の役割を担う。したがって、本種に対する海洋酸性化の影響を明らかにすることは、生態系全体への影響評価の一助となり得る。本研究では、ヒザラガイに及ぼす海洋酸性化の影響を多面的に評価した。
【材料・方法】野外調査は2022年7、11月に東京都式根島のCO2シープ(将来の酸性化条件が疑似的に再現されている海域)を用いて実施した。この酸性化海域と通常海域間でヒザラガイの個体数と、その餌資源(藻類)量・捕食者(イボニシ)密度を比較し、酸性化による個体数の増減と間接効果の影響を評価した。また、ヒザラガイ成体を酸性化条件下で28日間飼育した後、生存率と成長率を測定し、更に視覚的刺激による防御反応への影響を評価した。
【結果・考察】野外調査の結果、ヒザラガイは酸性化海域で殆ど消失していることが明らかになった。他方、捕食者数には変化が認められず、餌資源量はむしろ酸性化海域で増加したことから、それらの数量を介した間接効果の影響は示唆されなかった。また、室内実験では酸性化条件下において生存率及び成長率の低下は見られなかったものの、影に対する防御反応が有意に鈍化した。これらの結果は、海洋酸性化がヒザラガイの生存・成長を直接減じることはなく、大型魚類等からの被食防御反応を妨げることを示唆する。したがって、海洋酸性化はヒザラガイの被食率を高めることで、間接的に個体群を消失させる可能性がある。


日本生態学会