| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-02  (Oral presentation)

氾濫原依存性淡水魚アユモドキの集団形成史:全ゲノムデータによる再構築
The formation of populations of the floodplain-dependent loach Parabotia curtus, as reconstructed based on whole-genome data

*井戸啓太(京大院理), 阿部司(ラーゴ), 岩田明久(京大院AA), 田畑諒一(琵琶博), 伊藤僚祐(京大院農), 渡辺勝敏(京大院理)
*Keita IDO(Kyoto Univ. Sci.), Tsukasa ABE(LAGO), Akihisa IWATA(Kyoto Univ. AA), Ryoichi TABATA(Lake Biwa Museum), Ryosuke ITO(Kyoto Univ. Agr.), Katsutoshi WATANABE(Kyoto Univ. Sci.)

日本は生物多様性ホットスポットであり,特に汽水・淡水魚類は危機的な状況にある.アユモドキは,現在深刻な絶滅の危機にある日本固有の淡水魚類であり,国の天然記念物およびIUCNと環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている.近畿地方の琵琶湖・淀川水系および山陽地方の旭川水系と吉井川水系に分布するが,本種は初夏の雨季に形成される氾濫原や,代替地としての水田周辺環境等に繁殖と初期生活史を依存しており,河川周辺環境の整備や稲作時期の変化によってほとんどの生息地で絶滅している.この生態的特性から,気候変動やそれがもたらす氾濫原形成の促進・抑制により,本種の集団サイズや分布域,局所集団間の連結性が大きく変動したと考えられる.本研究は,アユモドキの系統推定,集団構造推定,集団動態モデリングおよび歴史的集団動態推定を行うことで,氾濫原形成に大きな影響を与えたと考えられる第四紀以降の気候変動が,本種の分布域形成および集団動態に与えた影響を考察することを目的とした.まず本種の現存する全局所集団(5集団)から計44個体の試料を入手し,新規ゲノム配列を決定した上で,全ゲノムリシーケンシングによりSNPデータを取得した.解析の結果,山陽地方の集団と近畿地方の集団の明瞭な分化が明らかとなり,さらに各局所集団ごとの分化も見出された.集団形成について,まず現存する集団の祖先集団から近畿地方の集団が分化し,続いて旭川集団と吉井川集団が分化したと推定された.これらの分化時期は,解析間の推定値に差異があるものの,いずれも寒冷化と降水量の低下が強い時期であることが示唆された.また,いずれの地方の集団においても寒冷な時期における集団の縮小が推定された.これらのことから,現在の夏季の氾濫原形成に強く依存する本種の生態から予測された通り,本種の分化や集団動態は,寒冷化や降水量の低下による影響を受けたと考えられた.


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