| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-04  (Oral presentation)

昼行性キリギリスは夜間に人工光下で鳴くか?
Does a diurnal bush-cricket sing at night under an artificial light?

*中岡佳祐(北大院・環境科学院), 先崎理之(北大院・地球環境)
*Keisuke NAKAOKA(Env Sci, Hokkaido Univ.), Masayuki SENZAKI(Env Earth Sci, Hokkaido Univ.)

 生物への夜間の人工光の照射は光害の一種であり、都市化や人口増加に伴い世界規模の問題となっている。それによって、生物の生活リズムや採餌、繁殖、移動などが影響を受けることが明らかとなっている。特に街灯の光に昆虫が引き寄せられる行動はよく知られているが、その一方で走光性を示さない昆虫への影響は未解明な点が多い。我々は昼行性とされるウスイロササキリ Conocephalus chinensis(バッタ目キリギリス科)が、夜間にも鳴いているのを街灯付近で観察した。本種の発音行動はオスによる求愛行動であり、人工光照射により繁殖行動の時間帯が延長している可能性がある。本研究ではこの仮説を検証するため、野外調査と室内実験からササキリのオスが夜間に鳴く要因を明らかにすることを目的とした。
北海道内の都市地域(札幌市、北広島市)と農村地域(石狩市、恵庭市)において、2022年8月から9月にかけて野外調査と実験個体のサンプリングを行った。野外調査では、各地域内に調査地点を20以上設け、各地点でササキリの発音行動の有無、調査時間帯(昼/夜)、人工光の影響の有無(照度により判別)、気温を記録した。また、調査地域あたり10個体のササキリを捕獲し、日没後に実験室内の透明容器に1個体ずつ放った。これらを照度0.01lx以下で1時間馴致させたのち、30分ごとに上方に設置したLED灯の消灯と点灯を切り替え、15分ごとに各個体の発音行動の有無を記録した。
 野外調査における発音行動の有無を応答変数に、調査時間帯と人工光の影響の有無を説明変数としたGLMM回帰分析により、人工光の照射を受ける地点で夜間に鳴く確率は、そうでない地点の約3倍(25%)になると推定された。また、室内実験では発音の有無を応答変数、光の操作を説明変数としたGLMM回帰分析から、点灯下に鳴く確率は消灯時の約3倍(74%)になると推定された。以上から、ササキリが夜間に鳴く要因として人工光照射の影響がある可能性が示された。


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