| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-05  (Oral presentation)

田植え時期および輪作の有無による水生動物群集への影響と指標種の抽出
Community structures and indicator species of aquatic animals in paddy fields with different time of starting irrigation and cropping systems

*安野翔(埼玉県環科国セ)
*Natsuru YASUNO(CESS)

 水生動物が水田を利用するためには、繁殖や水中生活の時期と湛水時期が一致する必要がある。関東地方以西では、農法の違い等によって水田間で田植え時期が大きく異なる場合があり、裏作として麦を栽培する二毛作も見られる。しかし、田植え時期や輪作体系(裏作の有無)が水生動物群集及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では、早植え栽培(5月植え)、普通期栽培(6月植え)、米麦二毛作(6月後半植え)の水田において、水生動物群集を比較するとともに農法ごとの指標種を抽出した。
 2020~2022年に埼玉県内の農法の異なる31枚の水田で調査を行った。5~7月にかけて、たも網で水生動物を採集するとともに、水田内の水温、pH、電気伝導度を測定した。
 水田ごとの水生動物群集の違いについて、PERMANOVAによる重心の検定を行ったところ、農法間で有意な差が認められた。IndVal法による解析を行ったところ、早植え水田では、トウキョウダルマガエル幼生、ニホンアマガエル幼生、ドジョウ、アカネ属幼虫等が指標種として選ばれた。2種のカエル幼生については、繁殖時期のピークと湛水時期が一致したためと思われる。ドジョウは成体、アカネ属は卵として非灌漑期の土壌中で休眠するが、湛水開始の遅い水田では生存率が下がるために、早植え水田でより多くの個体数が生息していたと考えらえる。一方、二毛作水田では、ユスリカ亜科、トゲバゴマフガムシの他、ハイイロゲンゴロウやコマツモムシといった肉食昆虫を含む計17分類群が指標種として選ばれた。一般化線形混合モデルによる解析の結果、餌生物(ユスリカ科幼虫と貧毛類)の個体数が多いほど、肉食性昆虫の個体数が多くなる傾向が認められた。二毛作水田では、収穫後に土中にすき込まれた麦藁が分解、栄養塩が溶出し、微笑藻類が増えることでユスリカ幼虫の餌となり、食物連鎖を通じてより上位の栄養段階に位置する肉食昆虫までも支えていると推察される。


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