| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-06  (Oral presentation)

オオムギリビングマルチが飛翔性昆虫の多様性と生態系サービスにもたらす影響
Effects of Barnacle Living Mulch on Flying Insect Diversity and Ecosystem Services.

*丸山知晃(東京大学)
*Tomoaki MARUYAMA(Tokyo Univ.)

近年、生態系保全の観点から環境保全型農業が推奨されているが、多大な労力とコストが普及拡大の弊害となっている。環境保全型の農法の一つであるリビングマルチ(作物以外の植物を生育させ雑草を抑制する技術;以降「マルチ」)は、他の農法と比べて手間やコストが少ない。そのため本農法は今後環境保全型農業を推進していくうえで有効な手段の一つとして期待されるが、その環境保全上の便益については不明な点が多い。本研究では、日本においてマルチが作物生産及び農業生態系にもたらす影響を解明する事を目的とした。

調査は東京大学附属農場で行った。栽培作物に夏作トウモロコシ、マルチ材にオオムギを用い、(1)慣行農法区(除草剤を使用)、(2)通常密度マルチ区(オオムギ種子を0.4kg/ha)、(3)低密度マルチ区(同種子を0.2kg/ha)の三種類の農区画を設置した。2022年9~11月にかけて(1)草本植物(被度と種数)、(2)飛翔性昆虫(各種個体数)、(3)生態系サービス(プラスチック粘土製のダミーイモムシへの攻撃痕)、(4)トウモロコシ収量の調査を行い、区画間で比較した。
 
解析の結果、草本植物の被度は慣行区よりもマルチ区で高かった。また、小型・中型のハエ類の個体数も、慣行区と比べてマルチ区で多かった。一方、カメムシ目の個体数はマルチ区で有意に少なかった。ダミーイモムシへの攻撃痕とトウモロコシ収量は、慣行区とマルチ区の間で差が見られなかった。

本研究の結果は、日本のような東アジアにおいて、マルチは作物の収量を大きく減少させることなく、複数の生物多様性保全効果をもたらす農法であることを示唆している。本研究では、生物多様性および生態系サービスの尺度ととして一部の飛翔性昆虫と害虫抑制機能のみを扱ったが、今後はこれらの項目以外の生物種や生態系サービスにも注目し、マルチがもたらす環境保全上の便益を包括的に明らかにする事が望まれよう。


日本生態学会